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大西良雄 ニュースの背後を読む 最新一覧2008年08月20日「捨てる」とは、過去にけりつけること(08年8月20日筆) まず、喫煙の過去を捨てることになりました。19歳の浪人中、予備校のそばにある公園で輪切りのピースを吸ったのを皮切りにハイライト、セブンスター、マイルドセブンと吸い継ぎ、40年です。タバコは、進まない原稿書きを進める必需材と思っていました。徹夜で原稿を書いたときなど、灰皿が吸殻でてんこ盛り、うたた寝して火事にならないかよく心配をしたものです。今はタバコがなくても原稿を書けますので、タバコが必需材というのは誤信でした。ただ、タバコを吸っていたときのように一気呵成に書き上げることができません。休み休み、タバコの代わりにコーヒーをすすりながらの原稿書きです。 それから、退職して1年も経過していたのですが、会社の先輩・後輩に退職の挨拶状を書きました。小生、ジャーナリストをしていながら、ひどい筆不精です。はがきは買うのですが、年賀状も暑中見舞いも書きそびれることがしばしばで、返事を書くのが精一杯でした。勇気を奮って、退職の挨拶状を兼ねたへんてこな年賀状を200枚近くも書いて出しました。郵便ポストに投函した瞬間、「これで会社人生という束縛された過去を清算できた」からでしょうか、とても爽快な気分になりました。 サラリーマンの制服である背広やスーツ、ズボンも、最近ですが、一気に纏めて捨てました。早稲田大学オープンカレッジの講義にはカジュアルな衣服で出掛けますし、これから多くなる葬式用にはダブルの喪服があります。普通の背広やスーツを着るのは講演のときだけですから、冬物、合い物の2、3着もあれば用は足ります。ということで、あれも要らない、これも要らない、小さくなった、あるいは流行おくれになった、背広やスーツ、ズボンを20セット分ぐらい捨ててしまいました。背広もズボンも、会社人生の久しい友達だったのですが、これも用なしです。体重が軽くなった気分です。 退社時に整理すべきだったのでしょうが、遅まきながら頂いた名刺もすべて捨てました。その多くは取材先の名刺です。いつか役に立つと思って残しておいたのですが、まったく役立たずでした。役に立たない名刺の代表は、大会社のサラリーマンの名刺です。この名刺の人物は、小生と同様に歳をとり、小生と同じようにリタイヤーします。サラリーマンは、組織を離れ権力を失えばほとんど無価値になります。老後、友人にはなれても、取材先、仕事相手にはなりません。これに比べ、苦労して事業を育て上げたベンチャーなど創業オーナーたちは、いつまでも現役で、その名刺は生き生きしています。まだ使えます。 後生大事に保存していた新聞の切抜きや資料・データや取材メモ、過去の講演録の類も潔く捨てました。なぜ資料類を残すのか、これはジャーナリストの習癖としか言いようがありません。これらを使って何か書き残したいのです。しかし、小生の回顧録など家族も読まないでしょう。先輩の高橋亀吉翁は『大正昭和財界変動史』など歴史に残る名著を老後に多く書き残しましたが、小生にはそのような才能も気力もありません。読むこともない黄ばんだ切抜きや資料・データなどゴキブリとダニの巣になるだけです。それに気づいて、すべて捨てました。 最後は難物の書籍です。尊敬していた先輩記者は、退職と同時に古本屋に来てもらい書斎の書籍をすべて売り払い整理したのですが、その売上総額は3万円に満たなかったそうです。どんな書籍を買い、読んだか、それは過去の知的営為の軌跡です。それがたったの3万円。書籍を捨てることは、自分のジャーナリストとしての知的営為を捨てることです。そう小生は思っていましたので、退職してすぐ3万円でジャーナリストを捨ててしまった先輩の心境をなかなか理解できませんでした。 小生、過去の知的営為を捨てるにしのびず、退職しても「捨てる書籍」と「保存しておく書籍」を区分けし、徐々に整理をすすめてきました。しかし、これも捨てるに忍びない、あれも取っておこうと思い煩い、なかなか整理が進みません。進まないのは、「保存しておく書籍」について「なぜ保存しておくのか」、その理由がはっきりしていないためだと気がつき始めました。歴史書やドキュメンタリー、小説は、自分が読み返すつもりがあれば、「保存しておく書籍」にすることができますから選別するのは簡単です。 厄介なのは万古不変の人間行動と人間の心理に踏み込んだ書籍、人々に読みつがれた古典的名著、それに最新の経済事象を理解するにたる一握りの解説書があれば、小生は、余生としてのジャーナリスト人生を過ごすことができます。それに値する書籍などそんなに多くはありません。経済・政治の本は、ほんの一部を除いて纏めて捨てるべし、です。 そう思っていても、纏めて捨てることができるかどうか、まだ自信がありません。65歳、70歳と歳を重ねるごとに徐々に捨てられていくはずです。しかし、いま一気にすべてを捨てることはできそうもありません。才能も実績もないのに、書籍を抱え込んで、ジャーナリストという職業に死ぬまでこだわるなど、無駄で無益なことです。先輩はそれを知って退職後すべての書籍を捨てたのです。小生も、書籍を抱え込むことなど余生にとって無駄で無益なであることを重々承知しているのですが、それらを捨て過去にけりをつければ、人生が終わってしまうようで怖いのかもしれません。肝心なところで、捨てる勇気が湧いてこないのです。トホホ。 2008年08月14日株価急落、不安な五輪後の中国経済(08年8月13日筆) 数万発の花火が国家体育場(通称・鳥の巣)を中心とする北京市街に打ち上げられ、まるで東京大空襲のように北京が燃え上がりました。北京五輪の開会式は、これまで見たこともないような華やかさと美しさを見せ付けました。 その開会式が行われた同じ08年8月8日、上海証券取引所では、株式が売り浴びせられ、この歴史的な開会式を祝うどころか、急落に見舞われました。 次の営業日、8月11日月曜日は、前週末のNY株高騰を受け反発すると期待されたのですが、この日も上海総合指数は135ポイントの続落。5.20%の下げとなり、2日間で10%近い下げを記録したのです。この日、大きく売り込まれたのは中国国際航空、北京市西単商場、北京王府井百貨などの北京五輪関連株でした。開会式の翌日に五輪相場は止めを刺されたことになります。 上海証券取引所は、信用取引ができない、外国人投資家が参加していないなどの理由から取引に厚みがなく、上げ一方、下げ一方という日本の新興市場での値動きに似た動きを見せます。上海総合指数は、05年7月の1004ポイントから2年3ヶ月で約6倍にも急騰。昨年10月に6124ポイントの最高値をつけた後、急落。10ヵ月後の8月11日には2470ポイントまでつるべ落としの下落です。ピーク株価の59.6%も値下がりしたことになります。 この上海総合指数の急落は、いったい中国経済のどのような矛盾を映し、どんな将来を予見しているのでしょうか。 中国経済は、過去5年、輸出の拡大をリード役にして機械設備、住宅・賃貸ビル、社会インフラなどへの投資(固定資本投資)など内需が盛り上がり、10%を越す経済成長をつづけてきました。しかし、この成長過程で、①資産価格の高騰(資産バブル)、②消費者物価の急上昇(インフレ)、③所得格差の拡大という3つの大きな矛盾を抱え込みました。 第一に資産バブルですが、その象徴が2年3ヶ月で6倍にも跳ね上がった上海の株式バブルです。不動産も沿海部を中心に、マンション価格が投資目的による売買などによって2倍、3倍に高騰するようなバブル価格になりました。 こうした資産バブルを抑制するために、昨年10月の共産党大会以降、中国政府は「景気過熱の防止」政策に転じ、預金準備率の引き上げ、窓口指導の強化など量的な金融引き締めを実施したのです。それによって株式、不動産の資産バブルの崩壊が始まったわけですが、五輪開会式後の株価急落は、バブル崩壊が最終局面に入ったことを表しています。沿海部の不動産バブルも沈静化し、株・不動産あわせて逆資産効果による消費減退が懸念されるようになりました。 さらに、この金融引き締めは、当然のことながら実体経済にも効き始めました。特にサブプライムローン危機によって中国の対米輸出が伸び悩み始めてから、引き締め政策が景気減速を本格化させる、いわゆるオーバーキル(景気の冷やし過ぎ)をもたらす恐れが出てきたのです。沿海部の輸出企業や中小企業、不動産業の中には、輸出減退と引き締めによる資金繰りの逼迫から破綻懸念を抱えるものが続出し始めています。 7月下旬に開かれた中国共産党政治局会議では、この景気減速のリスクを回避するため、「景気過熱の防止」(資産バブルなどの制圧)から「経済の安定的で比較的早い発展の堅持」(景気減速の回避)に政策転換することになりました。そこに立ちはだかったのが、08年上期平均で7.9%にもなる消費者物価の上昇です。第二の矛盾です。この物価上昇の原因は、世界的な原油高や穀物高が主ですが、中国の場合、これに賃金上昇によるコストプッシュが加わり、インフレ圧力は強いといわざるを得ません。 中国社会では、鄧小平が唱えた先豊論(先に豊かになれるものから豊かになる)が行き過ぎた面もあります。高度成長政策によって先豊者は増えましたが、内陸部、辺境部に住む国民の多数は低所得状態をつづけており、所得格差が拡大(第三の矛盾)しています。これと環境汚染や官僚腐敗の問題が重なって、国内には社会不安の種が深く沈潜しています。消費者物価の高騰は、格差にあえぐ低所得者層の生活を直撃し、北京五輪によってかろうじて押さえられていた各地、各層の不平・不満が表面化する危険があります。 かりにインフレ抑制を優先し金融引き締めを継続すれば、景気減速が本物になります。中国の場合、減速といっても11%台の成長率が8~9%台に下がるグロース・リセッション(高成長下の不況)です。しかし、中国は、最低でも8%台の経済成長率を維持できなければ失業者を吸収できず、失業率が上昇するという雇用の構造問題を抱えています。 失業率の上昇を防ぐためにも景気減速は回避しなければなりません、景気減速を回避するには量的金融引き締めを解除する必要があります。事実、人民銀行は、融資枠の拡大を銀行に認めはじめました。しかし、量的引き締めを緩和すれば、消費者物価の上昇がふたたび加速する恐れがあります。中国では、インフレの抑制と景気減速の回避という2つの政策目標は、「あちらを立てればこちらが立たない」というトレード・オフの関係にあるのです。 上海総合指数は、金融引き締めの解除をめぐる「景気減速の回避」と「インフレの抑制」の2つの政策目標のトレードオフ関係を嫌気して急落したといえます。この中国経済のトレードオフを解く鍵は、インフレの原因である原油価格の下落にあります。その下落を決定的にするのが、中国の景気減速による石油消費量の減退だというのですから、皮肉な自作自演劇というほかありません。 2008年08月06日「国民目線」とは選挙目当てのことか(08年8月1日筆) テレビの出演者が、映しているカメラに目線を送ることを「カメラ目線」といいます。テレビの視聴者は、この「カメラ目線」によって、出演者が自分に直接話しかけられていると錯覚するそうです。しかしこの「カメラ目線」ですが、カメラのほうばかり見ていて共演している相手方の目を見て話していない、わざとらしい、不自然な目線といえます。いま目の前にいる話し相手を無視して、テレビの向こうにいる視聴者に媚を売る目線なのですから。 福田総理は、「国民目線」の政治の第一弾として「原油高、食料品価格高騰に対する総合経済対策」のとりまとめを就任したばかりの与謝野馨経済担当相に指示しました。与謝野大臣は、農水省、国土交通省、経産省など背後に省益につながる業界を抱える縦割り省庁から対策案を吸い上げることになります。対策費の財源は07年度予算で余った3000億円の範囲といいますから、景気後退を下支えする景気対策としては何の効き目もない規模です。 ただ、農業者や漁業者、運輸業者など「業界票」、「中小企業票」、遠隔地など「地方票」のとりまとめには多少は効き目があるかもしれません。一部の選挙民に実質的な燃費補助金を供与するのですから。小沢民主党は農家への戸別所得保障などのばら撒きで選挙民を釣るそうです。その向こうを張って福田自民党は、燃費補助金をばら撒き、民主党に流れる票を何とか食い止める算段です。国民の税金を使って政府与党への票をとりまとめるなど許しがたいことです。 「国民目線」の政治とは、選挙に勝つためなら、選挙民に媚を売り、特定の選挙民に税金をばら撒くのも厭わないという政治のことだとわかりました。高騰する原油で困っているのは漁民や農民、運輸業者だけではありません。食料品、ガソリン代、電力・ガス代(秋から)など生活必需品の急速な値上がりで痛手をこうむっているのは生活者や消費者も同じです。都市や工場で働く非正規雇用のワーキングプアも被害者です。卑しい言い方ですが、生活者や消費者もワーキングプアも、漁業者のように鉢巻をして集会を開き、声を上げれば、ばら撒きのお布施、掴み金をいただけるのでしょうか。 与野党問わず、ほんの一部の選挙民の「目線」を恐れて(票が欲しくて)、差別的なばら撒き政治がまかり通っているというほかありません。政権維持か、政権交代か、政権の奪い合いのために、与党も野党も、国民の貴重な税金をばら撒いて票集めをするというのなら、「総選挙」などやらないでください。総選挙には500~600億円の経費が掛かるそうです。これも税金から支払われます。「総選挙がいつか」「どちらが勝つか」だけしか論じない、競馬予想屋のような政治記者や政治評論家の意見を無視して、福田さん、あと一年、任期いっぱい、解散せず勤め上げてください。 「一内閣一仕事」といわれます。衆参のねじれ国会の状態で、福田内閣が多くの仕事ができるなどと誰も思っていません。あと一年、総理唯一の権限といって過言ではない「解散権」を握ったまま総選挙はせず、その代わり「一仕事」でよいから断行して、歴史に福田内閣の足跡を残してください。 小生は、新に内閣官房長官のもとに発足した「行政支出総点検会議」(座長・茂木友三郎キッコーマン会長)に大きな期待を寄せています。この会議は、東国原英夫・宮崎県知事が参加して話題を呼びましたが、経済同友会の知恵袋だった茂木座長の外、小生の友人・知人も参加しています。一人は頑固な財政均衡論者として知られる富田俊基(中央大学教授、前・野村総研主任研究員)さん、もう一人は正統派の経済ジャーナリストである嶌信彦(元・毎日新聞経済部記者)さんです。富田さん、嶌さん、陰ながら応援しています。 この会議は、特別会計の支出公益法人への行政支出、その他行政支出全般にわたって「国民の目線で無駄の根絶に向けた指摘を行う」ことを任務としています。省庁、独立行政法人、特殊法人、公益法人などの役人、準役人による、言葉は悪いですが「国家へのたかり」をつぶさに指摘することになるはずです。通称「無駄ゼロ会議」といいますが、役人たちの隠微な抵抗を跳ね飛ばし、役人たちの「たかり根性」を叩きのめしてほしいのです。 この会議の成功こそ、福田内閣があと一年かけてできる「一仕事」かもしれません。もし役人の抵抗が強くてどうにもならないのなら、これまで行政支出に鋭く切り込んで成果を上げている長妻昭議員ら民主党との部分連立を組んだらどうでしょう。「行政支出総点検会議」を行政支出総点検のための「国民会議」に格上げするのです。新聞屋(ナベツネ)が仲介した変な「大連立」ではなく、役人と戦うための「部分連立」であれば、「国民目線」は大いに歓迎すると思います。 2008年07月30日原油バブルの崩壊が始まった?(08年7月30日筆) 世界の原油価格の指標になるWTI原油は、7月11日に一時1バレル147・27ドルの史上最高値をつけた後、下落を始め、7月25日には122.50ドルの安値を付けました。わずか2週間で25.23ドルの下落、ピーク比17%弱の急落となりました。気の早い兜町周辺では、「この下げは原油バブル崩壊の序曲、年末には1バレル70ドル、来年には60ドル台まで下落が加速する」という観測も飛び出しています。 原油価格のチャートから判断すれば、まだ原油価格が下降トレンドに入ったとは言い切れません。原油価格は、この急落で13週移動平均線を突っ切って下がりましたが、まだ26週移動平均線を上回っています。下支えの26週の移動平均値は1バレル119ドルですから、120ドルを割り込めば、下降トレンド入り、原油バブルの崩壊が始まったとチャート上は判断されます。 ただ今回の原油急落には、これまでとはいくつかの点で違った要素が絡んでいます。ひとつは政策金利です。金融政策は、ヨーロッパ中央銀行の0.25%利上げ(4.25%へ)、FRBの利下げ打ち止め(2%据え置き)によって、金融不安克服からインフレ抑制に重点が移り、最近ではFRBも利上げに転じるのではないかと観測されるようになりました。利上げによって原油投機に回る余剰資金を吸い上げるという政策への転換です。 これと並行して、原油投機に対する規制強化の動きが出始めています。アメリカの下院では、製油所などの実需筋以外の需要家、つまりヘッジファンドや商品ファンドなど投機筋の原油先物の持ち高を制限する法案が審議され、近く採決される見通しです。投機筋の買いに足枷をはめようというわけです。 このような規制法案が金融自由主義のアメリカでその通り施行されるとは思えませんが、この法案が投機筋に与える心理的効果は大きいといえます。年金基金などは、インデックスファンドの持ち高を減らし始めており、「毎週、平均で10億ドル(約1070億円)の資金が穀物や原油先物市場から流出していると言う試算もある」(「日経新聞」7月28日朝刊)ようです。 振り返ってみますと、原油価格が上昇を始めたのは、1999年に入ってからです。原油価格は、98年末の1バレル11ドル台を底値に、世界的な原油需要の拡大と歩調を合わせて上昇し、06年7月には7倍の77ドル台に達しました。この77ドルへの上昇は、消費の増加と生産の停滞という需給関係に沿った上昇だったといえます。とりわけ原油需要の増加が顕著で、その主役が住宅景気に乗って景気拡大を続けたアメリカと年率10%を越す経済成長を5年以上もつづけた中国だったことは言うまでもありません。 この1バレル77ドルへの上昇局面では、ニューヨーク・ダウも上海総合も連動して上昇し、株価と原油価格は蜜月関係にあったといえます。つまり原油価格の上昇は世界経済の成長の阻害要因にはなっておらず、株価の上昇と原油価格の上昇が無理なく並立していました。したがって、1バレル77ドルまでは原油の需給関係を反映したノーマルな上昇で、77ドルという原油価格は需給逼迫というファンダメンタルズ(基礎的条件)を映した価格だったと言えそうです。 その後、1バレル50ドルまで調整していた原油価格は、再び上昇を始めました。ファンダメンタルズ価格の77ドルを突破し、原油取引がバブル化し始めたのは昨年の8月からです。昨年の8月は、アメリカでサブプライムローン焦げ付きによる金融不安が表面化し、FRBが政策金利を大胆に引き下げ始めた時です。この時から、原油は株式や為替、債券と同じような「金融商品」に化したといえます。投資家の間に、金融不安に備え株式、とりわけ金融株を売り、金利が引き下げられるたびにドルを売り、その代わりに原油と穀物、ユーロを買い上げるという構図が埋め込まれました。 ドルが下落すれば原油を買うというような投資行為は、原油価格が無限に上昇するという先高幻想がなければ成立しません。しかし、このような先高幻想は、原油の高騰による原油需要の減退によって必ず打ち砕かれるはずです。ドルの下落は世界景気のエンジンであるアメリカの景気後退の象徴で、原油需要の減退がすぐそこに待ち構えています。ドルの下落に伴って原油を自動的に買うという投資手法はもうすぐ成立しなくなります。 原油バブルは、下がるから売る、売るから下がるという反転メカニズムによって崩壊すると思われます。その契機は、背景に世界的な景気後退による原油需要の後退というファンダメンタルズの変化が控えてさえいれば、原油投機の規制でも何でもよいのです。すでにこの08年上期、アメリカの石油需要は減少に転じています。最大の需要増加国・中国も北京五輪終了後に景気が大きく減速、原油需要の伸びは鈍化するはずです。 下げても1バレル77ドルと高水準だと思われる向きもあるかもしれません。しかし、途上国の成長に伴う原油需要の中長期的な増加は必然です。これに伴う原油の増産は緩やかなものにならざるを得ません。目先では需給関係は若干緩みますが、中長期的には需給はタイトになるのは間違いありません。77ドルでも不思議ではないと思います。 この77ドルは、オイル・サンド(油砂)やオイル・シェル(油頁岩)を採掘・精製しても採算に乗る値段だといわれています。同じ化石系エネルギーである原油の可採埋蔵量はわずか40年ですが、オイル・サンドやオイル・シェルの可採埋蔵量はいずれも原油換算で200年を超えます。埋蔵量は、カナダや豪州、アメリカに多く、原油のように中東に偏在することもありません。 1バレル77ドルという原油の下限価格は、原油代替エネルギーとの競争上からも妥当な価格ということになります。 2008年07月23日ファニーメイとフレディマックの危機(2) 「ドル不信」で売られるドル資産(08年7月23日筆) アメリカのポールソン財務長官は、現地時間の7月13日、日曜日を返上して、財務省による融資枠拡大や資本注入、FRBによる公定歩合貸出などの、ファニーメイとフレディマックに対する支援策を発表しました。翌14日の月曜日にフレディマックが30億ドルの短期債券の入札を控えていたからです。 フレディマック債への応札が不調に終われば、資金繰りがさらに苦しくなるところでした。市場ではこの支援策を好感して応札は順調に進み調達金利も上昇しませんでした。財務省もFRBもほっと胸をなでおろしたに違いありません。両社の資金繰りの悪化が世界の金融不安に直結するところだったからです。 米国国債に準じ、「暗黙の政府保証」がついているとされるフレディマック債やファニーメイ債への応札不調はドル資産に対する不信感の表明となり、ひいては米国国債の売り(ドル売り=ドルの再下落)につながりかねません。現在のような金融市場の投機化のもとでは、ドル売りは自動的に原油買いとなり、原油価格のさらなる上昇をもたらすリスクを孕んでいました。 住宅バブルの崩壊が顕在化して以来、ドル資産への不信感はまずアメリカの(ドル表示)株式の売りという形で現れました。最近は、とりわけ金融株への空売りが猛烈を極め、株価の下落を加速しています。株式の次に売られるドル資産は、ファニーメイ債などの準公共債や米国国債なのでしょうか。 金融株の空売りは、サブプライム関連損失の推計値が当初の1000億ドルから5000億ドル、さらに9500億ドルへと拡大するたびに増えました。日本株が、不良債権の推計値が膨らむたびに外資系証券の空売りを浴び、日経平均株価が7600円台にまで売り崩されたのを記憶しておられる読者もいらっしゃるかと思います。それと同じことが本場のアメリカで起きたのです。 シティグループやメリルリンチ、リーマン・ブラザーズなどのサブプライム関連の大手金融株、ファニーメイやフレディマックなどの政府系金融株が売り崩され、株価の急落が金融機関の信用不安を煽り立てることになりました。慌てたアメリカの財務省は、空売りの規制にも踏み込みました。空売りはほんらい株を借りて、それを売り付けるものですが、株を借りずに空売りする投機が横行しており、それを規制するというのです。 7月15日にはNY株価は底割れして1万0827ドルの安値を付けましたが、その後この空売り規制が奏功して株価は小反発しています。しかしこれで、住宅価格の下落が止まるわけでもなく、金融機関の住宅ローン関連損失もサブプライムからオルトA、プライムとより上級の住宅ローンに広がりつつあります。さらに、アメリカの景気減速、貸し渋りに伴う消費者ローンや商業用不動産、中小企業向け融資の焦げ付きの発生は、これからです。金融機関は、新たな不良債権の負担を警戒することになります。したがって、ドル資産への不信感が消え去ることにはなりません。 ドル資産売りは、株式売りからファニーメイ債、フレディマック債売り、そして本丸の米国国債売りに至るのでしょうか。より重要なドル資産の投げ売りはドル暴落を招きかねません。このドル債券売りの換金資金は、いまや最も強力な現物資産になっている原油や穀物に向かうことになります。燃え盛る資源インフレによりいっそう油を注ぐことになります。 かりにファニーメイとフレディマックが再び国有化されたとすれば、その両社が抱える約5兆ドルの債務(発行債券と住宅ローン担保証券。うち30%、1兆5000億ドルが外国人保有)は国家の債務になります。現在アメリカは4兆7000億ドルの国債発行残高(うち47%、2兆2000億ドルが外国人保有)を抱えていますが、これに住宅2公社を加えれば、連邦政府の債務総額は9兆7000億ドル(約1000兆円)と倍増することになります。 ファニーメイなどを国有化しても、名目GDP13兆2000億ドルのアメリカですから、連邦政府の債務残高対GDP比率は73%にとどまります。モルガン・スタンレーの「フラッシュレポート」(7月15日付け)は、これによって「米国債がAAA格付を失うことはない」という同社エコノミストの意見を掲載しています。その根拠のひとつに、S&Pが日本国債を格下げした2001年当時に比べ、アメリカの債務残高比率はまだ小さい点を上げています。当時の日本の政府債務残高対GDP比率は134%で、5年以内に165%に上昇する可能性があるとS&Pは見ていいました。 しかし、バブルの崩壊は財政を予想以上に悪化させるというのも日本の経験です。今後、住宅2公社だけでなく連邦政府の債務総額がさらに膨らむ可能性が他にもあります。景気減速によって税収が減少し財政赤字が拡大する。さらにFRBによる民間金融機関の不良債権の実質買い上げ(例はベアスターンズの破たん処理)あるいは財務省による民間金融機関への公的資本の注入、住宅ローン債務者への支援など住宅バブル崩壊対策の財政支出が赤字に加わります。アメリカの連邦財政は、イラクとアフガニスタンの両面で軍事支出を拡大し続ける余裕などないのです。 こうしたアメリカの財政赤字への不信が、外国人投資家の米国国債売りにつながり、ドルの暴落をもたらす危険が皆無とは言い切れないと思います。ちなみに住宅2公社及び連邦政府の債務に多く投融資してアメリカ経済を支えているのは、中国と日本の2国です。中国人と日本人の米国国債売りは世界を震撼させますが、中国も日本もその返り血を浴びることを肝に銘じておくべきです。 |
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